川原を歩いていると久々に小次郎に会った。
というかいきなり斬りかかられた。
三合刃を交えただけで満足してくれたからいいが、愛情表現としては歪みすぎである。
まあ、それを愛情表現だと理解できる時点で自分もずいぶん歪んでいる気がするが。


久々に会った小次郎の太刀筋はまた一段と鋭くなっていた。
油断していると今度会ったときには殺されてしまうかもしれない。
それもいいかも、なんて思っている自分がいる。
弱者として見捨てられる前に強者として斬られる方が何百倍もマシだ。


小次郎は刀を納めるとすぐさま逢いたかったと抱きついてきた。
血の匂いがする。どうせまた戦場をふらついていたんだろう。
怪我をしてないかと体に触ればくすぐったいと笑った。
そんな顔をされると人斬りだということを忘れてしまいそうになる。


二人して川原に寝転がる。
何をするでもなくぼうっと雲の流れを眺めていると小次郎が擦り寄ってきた。
甘えたいから甘える。自分の欲求に小次郎はとことん素直だ。
体を起こしておいでと言えば、寝転がったまま抱きついてくる。
猫にするように頭を撫でてやれば嬉しそうに目を細めた。

「撫でるの、好きかい?」

しばらく黙って撫でていると、小次郎が呟く。
それまでの跳ねるような上機嫌丸出しの声とは違う、変に落ち着いた声だ。

「好きだよ」

手を止めずに頷けば、また沈黙が訪れる。

「僕のことは?」

大きな雲が二つ頭の上を通り過ぎた頃、また小次郎が聞いた。
何のことかと手を止める。小次郎は何も言わない。
もう一つ、大きな雲が通り過ぎた。
嗚呼、そうか。

「好きだよ」

思い当たって同じ答えを返せば、小次郎が顔を上げた。
上目遣いでこちらを見る小次郎は、いつもより随分と弱気に見える。
可愛くて仕方なくなるからそういうことは止めてほしい。

「好き?」
「好きだよ」
「僕のことが?」
「好きだよ」
「・・・本当に?」

起き上がって顔を近づけ、何度も何度も同じことを聞いてくる。
笑っているのに泣きそうな顔。
刀を抜いているときと同じ人とは思えない。

「嘘言って、どうするのさ」

そう言って笑えば、象牙のように白い頬が少し赤くなる。

「・・・・・・・・・・・僕も好きだよ、

互いの気持ちを告げたのは、そういえば今日が初めてであった。